ルイーズは何でも知っている(アンティーク恋噺3-6)

前回の続きです😊

ルイーズは何でも知っている(アンティーク恋噺3-6)

3-6
 
 その日、金曜日はあいにくの雨だった。ルイーズは食堂の窓の外を憎らしげに見た。ママはお友達の家に、侍女と共にお茶に行っている。姉や兄は、それぞれ自室に引きこもって読書やら勉強を住み込みの家庭教師としている。弟のロイは乳母と育児室。食堂でルイーズはひとり、どうやって雑貨屋に行くべきか考えていた。そこに小柄のキッチンメイドのマリーが食器を抱えてやって来た。
 
  マリーはまだ年若く、たぶん17か18歳だと思う。この家でコックの助手をして2年目になる。
(マリーなら若いから大丈夫かもしれない)
 そう思うと、ルイーズは自分の近くを通ろうとしたマリーにすぐさま声をかけた。
「ねえマリー。ちょっといいかしら」
「は、はい!お嬢様!」
 マリーは、使用人である自分の名をご家族の一員、しかもこんなに小さい少女に覚えてもらっていたことに驚きを隠せなかった。だが、次の少女の言葉にもっと驚くほかなかった。
「ねえ、今日ってもう街に買い物に行く用事はないの?」
「え、用事ですか。ありますけど……どうかされたんですか、お嬢様?」
「理由は……言わないとダメよね。いや、あなたなら言った方が協力してくれるわよね?」
「何を言い出すおつもりですか……」
 マリーは身構えた。このきょうだいの中では、ルイーズが一番我が強く、はねっかえりのお嬢様だ。物怖じすることなく何でもはっきり言うところが、生意気だという使用人もいたが、マリーにはむしろすがすがしく思えて一番好きだった。でも、どういう魂胆でこのようなことになっているのか、話が読めなさすぎる。
「私、どうしても会いたい人がいるの。その人が明日引っ越しちゃうから、今日お別れを言いに街に行きたいの」
 
  旦那様が聞いたら卒倒するだろう。マリーは一瞬自分がめまいに襲われたかと思った。でも、すぐに思い返した。今日は奥様も暗くなるまでは戻らないだろう。他のお子様がたも雨でどこかに行く気配はない。ここは助けて差し上げたい。
「かしこまりました、お嬢様。おまかせください。でも、どんなに素敵な殿方なのかこのマリーにもよく話して聞かせてくださいまし」
(3-7に続く)
 

あしたのパン焼きさん

奈良・西ノ京でオンラインのタロットカード専門店Sweet Magical Card を営んでいます。完全予約制にて対面鑑定も実施中。 文書いたりイラスト描いたりタロットカードで占ってみたりしてますが、実はパンも焼いてます。

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