ルイーズは何でも知っている(アンティーク恋噺3-5)
お待たせしました😊続きです!
ルイーズは何でも知っている(アンティーク恋噺3-5)
3-5
ある火曜日、いつものように雑貨屋に行くと、ビクターが力なく片手を上げた。
「こんにちは、ビクター」
「やあ、ルイーズ」
「どうしたの?元気がなさそう」
「うん、ちょっとね」
ビクターはいつになく片手をポケットに入れ、そわそわと手近な棚の品物を物色していた。石鹸にたわしに詰め替え用練り歯磨き粉。買う品をよく見ないうちに乱雑に買い物かごに入れる様子はいつも穏やかな笑みを絶やさないビクターらしからぬ振る舞いだった。
「ねえ、イライラしてるの?」ルイーズの問いかけには答えず、ビクターは口を開いた。
「ルイーズ。言いにくいことがあるんだ」
「言いにくいことがあるなら言わなくていいわよ」
「いや、そういうわけにはいかないんだ」ビクターは苦しそうに早口でまくし立てた。
「父さんの仕事の都合でね、またイギリスに引っ越すことになったんだ。いつ戻ってこれるか、わかってなくてね。だからルイーズ、君とはもう会えないんだ」
「うそ」
ルイーズの目の前が真っ暗になった気がした。月のない夜でもここまでは暗くならないだろう。
「ビクター、それ本当なの?いつ引っ越すの?」
「土曜日だ。朝一番の汽車に乗ってカレーへ行く。そこから船に乗るんだ」
カレーはフランス北部の港町で、ドーバー海峡の入口の街である。さすがのルイーズもカレーに見送りに行くのは遠すぎる。ルイーズはうつむいた。
「そうだ、金曜日。金曜日の午後は最後のおつかいでここに来るんだけど」
「行くわ。必ず。ママに内緒で行くわ。私、どうしてもあなたをお見送りしたいの」
必死の形相で訴えるルイーズにビクターは片目を瞑ってみせた。
「じゃあそうしてくれ。待ってるよ」
(3-6に続く)
0コメント