ルイーズは何でも知っている(アンティーク恋噺3-7)

お待たせしました😉続きです🎶

ルイーズは何でも知っている(アンティーク恋噺3-7)

3-7
 マリーのお下がりの、くたびれただぶだぶのワンピースをルイーズは素早く着た。後ろのボタンだけはマリーにとめてもらった。そして、融通の利く家政婦長にだけ一言伝えておいて、結果10分もしないうちに二人で使用人用の馬車に乗ることになる。

  馬車では、ビクターと出会った日のことから、ルイーズは順番に話した。また、容姿のことにも触れた。兄・アレクサンドルとその友人の誰よりも甘いマスクで、口を開いていても黙っていても麗しいとだけ伝えておいた。あと、立ち姿が絵のように美しいことも。
「それはようございますわね!」
 マリーもルイーズと同じだけの熱量で相づちを打つので、ルイーズのビクターを語る眼差しは熱を帯びる一方であった。 

 雑貨屋は雨をしのぐ冷やかし客で普段より混雑していた。ルイーズはいつものポシェットの紐を固く握りしめた。
(ビクター、どこにいるの?もう帰っちゃったの?)
 ルイーズは懸命に店内を探した。見慣れた千鳥格子の帽子が人波の向こうにちらりと見え、ルイーズは急いでその距離を詰めようとした。
「ビクター!」
 次の言葉が出なかった。ビクターの隣には1ダースくらいの少女たちが群がっていたのだ。みな、一様にビクターに手紙のような封筒を渡しては泣きながら何かを言っている。ルイーズを言い様のない何かが襲った。そして、彼女はそれ以上近付けずに立ちつくすのだった。
 
ビクターは火曜日と同じく、そわそわした感じで落ち着かなく周りをキョロキョロと見ていた。ふいに、離れたところに所在なさげに立っているルイーズの姿を認めると、その間に何の障害物もないような足取りで歩いた。
「ルイーズ!来てくれたんだね。服の感じが違うからちょっとすぐには気付かなかったよ。悪かったね」
 にっこりと笑うビクターを見て、マリーは足元から崩れ落ちたい気持ちになった。崩れ落ちた私をビクターが優しく抱きとめてくれたなら、それでいい。
「ううん。謝らないでちょうだい。キッチンメイドのマリーの服を貸してもらったの」
「こんにちは。あなたがビクターね。噂はかねがね聞いているわ」
 すかさず傍にいたマリーが言った。
「僕なんかのためにややこしいことをさせてしまったみたいですみません」
 ビクターが軽く会釈すると、マリーもルイーズと同じ顔色になった。
「ビクター、ごめんなさい。他の女の子たちみたいにお手紙とか、私用意してこなかったわ」
 何か餞別にあげられるものはないかと、ルイーズはポシェットの中を懸命に探った。
(あった)
 ルイーズがビクターに差し出したのは、初めて会った日にもらった、あの棒付きキャンディーだった。
 (最終章に続く)

あしたのパン焼きさん

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