ルイーズは何でも知っている(アンティーク恋噺3-3)
前回の続きです😊
「ルイーズは何でも知っている」(アンティーク恋噺)
3-3
次にルイーズが少年に会えたのは、3か月も後のことだった。天気が悪かったり、急な来客があったり、ルイーズが風邪をひいたり、夏休みを別の街の屋敷で過ごすことになったりと、買い物に行けそうで行けなかったのだ。
夏の間に鼻の頭のそばかすが増えたような気がする。ルイーズは上の右の前歯が抜けた間抜けな口元で雑貨屋に向かうのはわずかに気が進まなかった。でも、あの少年に会いたい気持ちの方が圧倒的に大きくて、迷わず買い物に同行した。
雑貨屋の品揃えは相変わらず多種多様で、生活雑貨から雑誌に新聞、駄菓子にちょっとした裁縫道具やクロモスという美しい紙片やグリーティングカードなどの文具類、子供の玩具に至るまで、色んなものがあった。
ルイーズは駄菓子のコーナーしか熱心に見なかったが、それだけでも栗やかぼちゃを使ったお菓子もあり、秋の訪れを感じることができるのだった。
母が嬉しそうに雑誌を小脇に抱えたままレースの端切れを物色している間、ルイーズはうろうろと店内を歩いた。高い棚の上の方などは、手が届くどころか、何があるのかも見えない。気の利かない店のようで、幼児向けの玩具がとても高いところに飾ってある。
ふと、ドールハウスのミニチュア応接セットが一つ下の段にあるのが見えた。ルイーズは別段買ってほしいとねだるほどではなかったが、どんなデザインの椅子なのか気になって、ルイーズは台を使って手に取ろうとした。すると、優しい声が背後から降ってきた。
「よかったら取ろうか?」
振り返ると、あの少年がにこにこと笑って立っていた。夏の間、どこかに行っていたのだろうか。少年は若干肌の色が全体的に浅黒くなっていた。
「あ!」
「また会えたね、ルイーズ」
くすりとほほ笑む少年を驚いた顔でルイーズは見つめた。
「どうして私の名前を知ってるの?」
「だってお母さんがいつも呼んでるじゃないか」
少年が言い終わるか終わらないかのタイミングで「ルイーズ、来なさい!」と母の声が店の奥から飛んできた。
「はぁい」ルイーズは嫌そうに応えると、少年に向き直った。
「お兄ちゃんは何ていうの?」
「僕かい?ビクターだ。僕は毎週火曜と金曜におつかいで買い物に来てるんだ」
「ふぅん。また来るから」
「よかった」
ビクターが手をひらひらさせた。早くお母さんの元に戻りな、と言っているようだった。
(火曜と金曜におつかいで来るビクター。)
ルイーズは心の中で呟いた。世界中の誰もが知り得ない、とっておきの秘密を知ってしまったような気がした。ルイーズはその名を呪文のように小さな声で何度も何度も呟くのだった。
(3-4に続く)
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