ルイーズは何でも知っている(アンティーク恋噺3-1)

お待たせしました!やっと完成しました😊アンティーク恋噺3、全8章の予定です✨お時間ある方はどうぞお楽しみください😉
「ルイーズは何でも知っている」アンティーク恋噺3

3-1
 
「ルイーズには全てお見通しなんだから」。
お決まりの文句を言うと、大きな額のブロンドの巻き毛の少女は、人差し指で下唇をなで、上目遣いに母を見た。「ママの好きな人がパパじゃないことくらい、わかってるの」。

「そうよ。だから何?」
ルイーズの母は新しいイヤリングをつけると、末娘に向き直った。
「で、今日は行くの、行かないの?」
「行くわよ。ママ、野暮なこと言わないでちょうだい」
  そう言うと、ルイーズは子ども部屋に取って返し、お気に入りのピンクのポシェットを斜め掛けにして戻ってきた。
「早く行きましょ、ママ。ロイが寝てる間に」
 
 
  末弟のロイがすやすやお昼寝をしている間に、母と連れ立って街の雑貨屋に行くのがと近頃のルイーズのお気に入りだ。母はここで毎週日曜日に発行されるファッション雑誌「ラ・モード・イラストレー」を買い求めるのを無上の楽しみにしている。ルイーズはそれを少女のように色めき立った表情で買う母の姿を見るのが好きだ。

そして、ついでに世辞の一つも口にして、レジカウンター横の駄菓子を買ってもらう。駄菓子を買ってもらうまでの一連の流れこそがルイーズには大切で、ファッション雑誌を欠かさず買う母の購買動機については大して興味はなかった。

買う頻度が以前より増えたとは思うが、その分自分が駄菓子を買ってもらえる回数が増えるというわけで、それはそれでルイーズには好都合だった。
 
 
  それが、今日はそうもいかなかった。雑誌が売り切れていたのだ。
「毎週買ってるんだから、せめて気を利かせて取り置きくらいしてくれていてもいいのに」

ルイーズの母はこんな時だけ貴族の末裔か知らないが、無駄にプライドが邪魔をしているような振る舞いをする。貴族の娘が、街の雑貨屋のしがない雑誌を後生大事にお取り置きしている、と世間から思われるのが嫌で、自分が取り置きを勧められてもしなかっただけなのに、何を言っているのだろう?いぶかしむような表情でルイーズは母を見上げた。

「また来週くればいいだけでしょ、ママ。悔しがったってダメよ。我慢しなさい」
  乳母の口癖をまねてみると、母の顔は色でも塗ったかのように赤く染まった。
「どこでそんな口の利き方を覚えたの?!いいわ、じゃあ今日はルイーズも我慢することね!」

  ガラス製のジャーポットを開けて、飴を物色しようとしていたルイーズの手の甲を、母がピシャリとはたいた。踵を返して店を出た母の背中を見て、ルイーズは悟った。
今日は駄菓子を買ってもらえない。何たることだろう?みるみる間に鼻の奥がつんとして、目頭が熱くなった。
「うわあーん」

  ルイーズは6歳の少女らしく、店全体に響き渡る声で鳴き声をあげた。その時だった。ルイーズの肩を後ろから優しくたたく手があった。
 (3-2に続く)

あしたのパン焼きさん

奈良・西ノ京でオンラインのタロットカード専門店Sweet Magical Card を営んでいます。完全予約制にて対面鑑定も実施中。 文書いたりイラスト描いたりタロットカードで占ってみたりしてますが、実はパンも焼いてます。

0コメント

  • 1000 / 1000