紙片の数字(アンティーク恋噺2-2)
先ほどの続きの話です。
紙片の数字
2-2
ある日曜日、礼拝を終えた人々が出口に押し寄せてくるのを見ながらジェームズは、ポケットにあるマーガレット用のホーリーカードのことを考えていた。
裏に何かメッセージでも書いておけば、何か話さなくても彼女と距離を縮められるのではないか?何て書いたら良いのだろう。ふと顔を上げると、同じクラスのビクターの姿が少し離れたところにあるのが見えた。
ビクターは容姿のいい男で、上背があった。先月、こんな田舎町に珍しくやって来た転校生で、父親が何かのセールスの仕事でこの町に来たらしい。鼻筋の通った小さな顔はくるくると快活に表情を変え、見飽きることはなく、同じ14才とは思えないくらい洗練された物腰の持ち主だった。
そのビクターが、何やらキョロキョロと周囲を見回していた。そして、マーガレットの姿を人込みに見つけると、迷いのない歩き方で近づいていく。
(マーガレットに何の用なんだ?!)
ジェームズはホーリーカードを渡す手を止めずに、目だけはビクターを追っていた。
マーガレットに何かを渡し、二言三言告げるとビクターはさっさと礼拝堂を後にしたようだ。一方のマーガレットはというと、今日はエミリーの姿はなく一人、ビクターの後ろ姿を身じろぎもせずに見送っている。
(ビクターはマーガレットに何を言ったんだ?!)
最後の一枚を渡し終えると、ジェームズは急いで帰り道を一人で歩くマーガレットを追いかけた。「別に」以外に何も話したことがないのに、ほぼ勢いで彼女に詰め寄った。
「マ、マーガレット!」
黙って顔を上げたマーガレットの顔には、怪訝な色が浮かんでいた。ジェームズは息が上がったまま言った。
「今日は、カードはいいの?」
急にマーガレットの顔がほころんだ。光が差したようにジェームズには見えた。
「欲しいわ」
「それ、さっきビクターが渡したのか?」「え?」
ジェームズは体中の血が一気に逆流したような気がした。即座にマーガレットからカードをむしり取ると、裏面を見た。「今日5時に雑貨屋の裏で」。
(なんのつもりだ、ビクター)
ジェームズはホーリーカードをマーガレットに返すと、そのまま駆け出した。
(2-3へ続く)
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