紙片の数字(アンティーク恋噺2-3完結編)

アンティーク恋噺2-3完結編

その日の午後をジェームズは悶々と過ごした。いつの間にビクターはマーガレットに接近していたのだ?たった1か月の間で。先週も先々週もマーガレットはそんな風な感じではなかった。
 考えてもはじまらない。ジェームズは夕方家を後にした。

 町に1軒しかない雑貨屋の裏手に回ってみると、見慣れた栗毛のおさげが見えた。
服は朝見た時と同じく、プリント地の小花柄のワンピースだ。
 
(マーガレット)
呼びかけようとした声は、音にならなかった。マーガレットの前にはビクターがいる。ジェームズは固唾をのんで見守ることにした。ビクターが爽やかな笑みを浮かべながら、マーガレットに何か言いかけている。
「待ってくれ!」
居ても立っても居られずに、ジェームズは2人の間に割って入った。驚きを隠すことのできない2人の表情は、目を丸くし、口をぽかんと開けたままで、まるで双子のようであった。

「ビクター、それ以上言うな。俺は、俺は」
 自分でも何を言い出そうとしているのか、ジェームズは自分で自分がわからなかった。ただ、ただ、よりによってこの2人の組み合わせが向かい合わせに立っている姿が我慢ならなかった。
「マーガレット、君のことが好きなんだ」
マーガレットの目が、今までの何倍も大きく見開いたように見えた。とっさにはにかんでうつむいた表情の彼女を、ジェームズは世界中で一番好きだと思った。
「そうか、それは良かった」
 マーガレットの代わりに口を開いたのはビクターだった。ビクターはネクタイを緩め、シャツの第一ボタンを外した。
「ジェームズ、心配するなよ。君はちょっと誤解をしている」
「何をだよ」
「僕が好きなのはエミリーだ。マーガレットには、彼女に近づくための手伝いをしてもらっただけさ」
「え」

 ジェームズの顔から何かが抜け落ちた。その名を彼自身は知らなかったが、もしわかっていたとしたらそれは「険(けん)」というものだったにちがいない。
「君が何を見たのか知らないが、今日僕がマーガレットに渡したのは日時を書いただけのホーリーカードだ。エミリーからの返事を聞き出すためのね」

 息を吹き返したジェームズの笑顔を、マーガレットがほっとした表情で包んだのだった。そしてそのまま彼女はこう告げた。
「ジェームズ、私、あなたからもらうホーリーカードがたまらなく好きよ。家でカードのコレクションを見ているととてもあたたかく幸せな気持ちになるの」
そのあとの言葉は消え入りそうだった。しかし、ジェームズには充分すぎた。
「もちろん配ってるあなたのことも」
(完)

あしたのパン焼きさん

奈良・西ノ京でオンラインのタロットカード専門店Sweet Magical Card を営んでいます。完全予約制にて対面鑑定も実施中。 文書いたりイラスト描いたりタロットカードで占ってみたりしてますが、実はパンも焼いてます。

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