紙片の数字(アンティーク恋噺2-1)
またまた勝手に想像を膨らませてお話を書いてみました!アンティークホーリーカードの裏に数字が書かれているのに題材をとりました😉全3回なのでお時間あればお付き合いくださいね!あ、天川村の旅模様も引き続き掲載予定です😅
2-1
土曜日の午後は、ジェームズにとって「ハサミの時間」であった。ボール紙の束を小さく小さくハサミで切って切って切りまくる。
ボール紙に印刷されているのは、草花などのカラフルでキッチュなイラストと、とても小さな文字。「天地は滅びるが、わたしの言葉は決して滅びない」とか「目を覚ましていなさい」とか、どれも聖書の一節だ。
数センチ四方になるように、黙々とハサミを入れる。老眼気味の母にこれをさせたら、うっかり文字部分を切り落としたりしてしまうだろう。小さな小さなホーリーカードをきちんとした長方形に切ろうと思ったら、決して母にさせてはならないのだ。
小一時間もしないうちに、ジェームズは数えきれないくらいの紙片を切り出した。小片の中から一番うまく切れた一枚を抜き出し、その四隅の角を丁寧に落とした。1ミリくらいの三角形が机の上に散らばった。どうか、あの子がカードの角で手を切らないように。
日曜日の礼拝の後、ジェームズは急いで礼拝堂の出口に籠を持って向かう。牧師の息子である彼には、母や小さな妹と共に参列者にホーリーカードを手渡す役目があるからだ。
帰路につこうとする人の波の中、ジェームズの目はいつも一人の少女だけを追っていた。マーガレットという、栗色の長い髪の少女だ。いつも友達のエミリーと連れ立って礼拝に来ている。
彼女は何を話しているのか、小さな声で話しては時折笑みをひらめかせる。険しい山の谷間にひっそりと咲く花のような、極めて抑えたほほ笑みがジェームズにはたまらなかった。
マーガレットに渡すホーリーカードだけは、ジェームズの上着の左ポケットに潜ませている。彼女の姿が近づいてくるのを認めると、彼はポケットから一番丁寧に切られたカードを籠に入れ、表情を変えずにマーガレットに手渡すのだった。
「ありがと」。ささやくように言うと、マーガレットはオリーブグリーンの目を一瞬だけジェームズに向ける。毎週恒例の、画びょうでピン留めされたような気持ちになる瞬間だ。
彼はわずかな間だけ直視に耐える。そしていつもどおり、わずかに目をそらして「別に」と言う。何度こんな日曜を過ごしてきただろう。ジェームズが彼女に「別に」と言う以外に口を開くことはなかった。したがって、彼はマーガレットがただの一度も休まず礼拝に来ている本当の理由を知る由もなかったのだ。(2-2に続く)
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