恋は現実と幻想のあいだ(下)
当時17歳になったばかりの淡い恋、最終章です。
修学旅行を好きな人とのツーショット写真でしめるという最高のカタチで終えた私は、浮かれていました。どれくらい浮かれていたかといえば、帰りの夜行バスの車内にお財布を忘れたくらいです。(お財布は後日問い合わせ、無事に戻りました)
その後、多分今日の建国記念の日くらいのタイミングだったと思いますが、私はスーパーに併設された小さな本屋さんでチョコレート菓子の本を買い、プレゼントを買い、ラッピング用の瓶を買いました。お菓子の本も今思えば大して凝ったものでもお洒落なものでもなかったように思います。高校生の自分が作れるかどうか、だけで選んでいたように思います。
結局作ったのはチョコチップ入りのドロップクッキーです。不器用で手際の悪い私にはもってこいの、スプーンで生地をポトンと天板に「ドロップ」していくタイプのクッキーです。
焼けたクッキーをガラス瓶に入れ、ラッピングしました。100均もあまり普及していない頃だったので、ラッピング代がプレゼントに買ったシャーペンと緑色のサインペン(なぜこれを選んだのかは謎)より高くついて辟易したのをまだ覚えています。
手紙を書き、呼び出す旨を記したメモを用意し、準備は完了しました。これを渡して告白しよう!ただ、手紙に何と書いたのかは覚えていません。
手紙に自分の気持ちを書いたのは間違いないと思うのですが、その後どうなりたかったのか、ビジョンが今思えば何もありませんでした😵
高2の冬に告白したところで春から受験生。図書館で勉強するデート?チャリ通(私)と電車(Oくん)通学なのに一緒に帰るのか?現実的にどうやって過ごすつもりなのか何もプランもないまま、私はただただ、修学旅行の夜と告白することのみを考えていました。
せめて別マの漫画くらい読んで予習くらいしておけば良かったのです。当時の私が読んでいたものといえば田中芳樹さんの小説、井上祐美子さんの小説、BL小説、高橋留美子さんのマンガや白泉社のマンガくらい。。。「一般的な」学園恋愛ものに触れないような生活をしておりました。したがって、自分が告白した後に何が待ち受けているのか、どうしていきたいのかについて考えたこともありませんでした。
学園恋愛ものに免疫のない私は、修学旅行の夜の出来事を多分都合よく解釈していました。何より2年あまり好きだった男の子が、写真を撮る段になって自分にだけ視線を注いでいる、ということがすでに感動すべきことで、そのことにすっかり酔ってしまいました。もはやファンタジーでした。根拠のない自信とどこから湧いてくるのかわからない謎のエネルギーに突き動かされ、クッキー作りに励み、その日に備えたのです。初めて感じる種類のエネルギーに名前があることなんて知る由もありません。
呼び出しメモを、彼の靴箱の扉の隙間にスッと差し込み、私は昼休みになるのを待ちました。バレンタインデーに起こった出来事は以上です。
そう、Oくんは指定した時間に現れませんでした。当時の呼び出しメモを片っ端から添削してやりたいですがそれは今となって思うこと。いや、誰かと恋愛してるような俗っぽさはない子だからな、、、二次元的だし。と私は勝手に自分に言い訳をし、慰めにかかりました。
それでも当時の私にとっては、あのバレンタインデーは大きな収穫がありました。あの時感じた、どこから湧いてくるのかわからないような謎のパワー。あれをまた感じたい、味わいたい、とあの日以来思うようになったのです。
昔から、私は自分の生活をテレビの画面越しに見ているようなところがあり、子どもの頃から「あ、これは現実なんだ、今生きてるんだ」と我に返るということを数限りなくしてきました。が、この頃を境に、我に返らなくても今自分が生きているということを感じられるようになっていきました。今ではその「我に返る」というのは年に1.2回くらいしかありません。
恋することが生きることだと知ってしまった。それが高2のバレンタインデーだったのかもしれません。
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