晴れわたる桃源郷16
扉を開けると、2組のお客さんがいました。軽く会釈をして入ると、手近なところに座りました。本を平積みにしているテーブルの位置が前回来た時と変わっていました。
お冷やとメニューをいただき、何にするか迷っているところ、「夏にも来てくださいましたよね?」とお店の方に言われました。その通りです。やはり閉店間際に来て突飛な話を延々と喋り散らした、奈良から一人旅で来た客は印象に残るのでしょうか。
スコーンと、冬なのにアイスコーヒーを頼みました。実はここに着く直前に遠回りして、福島ご当地パンのクリームボックスを買っていたのです。冬至直後の、短命の陽を追いすがるように駆け足でパン屋さんへ向かう道を駆け上り、ブックカフェが閉店してしまう前に滑り込まねばと、チョロチョロと小走りを続けていた身には、アイスコーヒーはうってつけでした。そして、スコーンもパイ風でサクサクとしていて美味しかったです。
壁に所狭しと並べられた本があるのを、私は惚れ惚れするように眺めました。ある意味夢のような眺めでした。行きたいように順にあちこち訪ねて歩き、また来ようと思っていたお店についに来れた。閉店してしまう前に。お正月休みに入る前に。また来ます、と言った約束を本当に果たせた(条件を全て叶えることはできなかったが)。スコーンのバターの香りとアイスコーヒーの旨味が沁みました。
あの日お店を訪れた翌日から、12月までに自分の身に起こったことを端的に話しました。本をお会計時に同時に買い求め、その時に12月、引き続き自分の身に起こったことを包み隠さず話しました。お店の人は「何も言ってあげられないけれど、ーーー」と言いました。私は聞いてもらえるだけで十分でした。
そして6時前。また来ます、と言って私はブックカフェを後にしました。どうか、ここにまた来れますように。(17へ続く)
0コメント